[:ja][終了しました]テスト理論と言語テストの課題[:]


[:ja]テスト理論と言語テストの課題

講演者: 中村 洋一

日時: 2018年2月3日 (土) 13:00-16:00 (50分3回の150分の講演・ワークショップ,10分休み2回)

場所: 名古屋大学全学教育棟・北棟406号室 http://www.nagoya-u.ac.jp/access-map/ 地図のB4①

 

言語テストのはじまりは、/ʃ/ の発音ができるかできないかで、敵味方を見分けるために使われたShibboleth test だと言われている (旧約聖書『士師記』12章 ギレアデ人 [シボレテ] – エフライム族 [セボレテ] )。しかし、「科学的な」テスト理論や言語テストの研究が始まったのは20世紀になってからで、その歴史は未だ100年ぐらいだと言われている。そもそも、テストすべき「言語能力」の解明も完了してはいない。本講演は、そのような歴史の中で研究が進められてきたふたつのテスト理論を概観し、言語テストの課題と将来的な研究の方向性を考える。

 

  1. 古典的テスト理論 (Classical Test Theory: CTT)

古典的テスト理論では、正答数に基づく得点 (number right score) を使用し、真の得点と誤差得点が含まれることを前提に、基礎統計量、標準得点、信頼性、項目分析といった統計処理を行う。従来から広く使用されており、結果の検討が比較的容易であるという長所もあるが、受験者の得点がテストに依存する、あるいは、テストやテスト項目の特性が受験者に依存するために、いくつかの欠点や限界も指摘されている。

 

  1. 項目応答理論 (Item Response Theory: IRT)

項目応答理論では、得点間の間隔のゆがみを補正するために、素点を基に自然対数を使用して変換したロジット得点を使用し、テスト項目の特性と受験者の能力との関係性を、確率論として捉える。データの解釈に専門的な知識を要するといった課題もあるが、受験者集団に依存しないテスト項目特性の算出・テストに依存しない受験者能力推定値の算出・受験者個々の項目ごとの情報量算出が可能になるといった利点がある。

 

  1. 言語テストの課題

今後の言語テスト研究における課題としては、「言語能力」の解明へ向けての継続的な追求がまずあげられる。また、スタンダードセッティングにおける分割点 (Cut Score) の設定方法についても、潜在クラス分析 (Latent Class Analysis: LCA)・潜在ランク理論 (Latest Rank Theory: LRT)・混合ラッシュモデル (Mixture Rasch Model: MRM) といったテスト理論の新たな観点を検討しながら、より良い方法を見つけ出していかなければならない。さらに、コンピュータ技術との連携によるコンピュータ適応型テストの開発や、そのために必要なアイテムバンキングについても検討が必要である。

 

中村 洋一の略歴:

清泉女学院短期大学教授・国際コミュニケーション科長、youichi@seisen-jc.ac.jp 神奈川大学外語学部卒業後、長野県の高等学校で英語の教員を務め、その間、1993年に上越教育大学にて MA (教育学) を取得。常磐大学 (2000年〜2008年) を経て2009年から現職に至る。専門は言語テスト (項目応答理論・コンピュータ適応型テスト・アイテムバンキング・スタンダードセッティング)。著書・論文は『テストで言語能力は測れるか』 (2002、桐原書店)、「言語テストにおけるテスト理論とデータ分析」(2006、『世界の言語テスト』、くろしお出版)、「コンピュータ適応型テストの可能性」(2004、『日本語教育』、148 号)、「第11章 コンピュータ化された項目バンキング」の訳出 (2008、『テスト作成ハンドブック』、教育測定研究所)、「Standard Setting におけるCAN-DOリスト作成とCut Score 設定の課題」(2016、『言語研究と量的アプローチ』、金星堂) など。日本言語テスト学会事務局長を経て現在は理事。

 

連絡:玉岡 賀津雄 (tamaoka@nagoya-u.jp) or 三輪晃司(kojimiwa@nagoya-u.jp)

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