2022年の夏に言語科学会会長に選任されました松井智子でございます。
1999年にJCHAT言語科学研究会としてスタートし、第三回年次大会において、言語科学会と名称を変更し、学会として確立された本学会は、これまで歴代の会長と運営委員の統括のもと、会員の皆様とともに、言語研究の発展に貢献し、研究者間の交流の実績を積んでまいりました。
言語科学会の目的は、言語の理論的・実証的研究をとおして、言語科学の発展に資するとともに、人間理解に貢献することです。この目的を達成するために、言語に関わる多様な研究推進していこうとしています。理論言語学から応用言語学はもちろん、自然言語処理やロボット工学、脳科学も対象分野に入ります。
私が言語科学会と出会ったのは、若手研究者だったときです。子どもの言語発達と社会認知の発達との関係を実験的に研究していたのですが、分野をまたがる研究のため、どこの学会でなら発表できるのか、悩みました。所属していた学会は、理論的な言語研究の発表を求めるようなものばかりだったのです。そのときに言語科学会を知り、大会で発表する機会を得ました。不安ながらも初めて本学会の大会で発表し、前会長の小林春美さんに、大変前向きなコメントや質問をいただくことができ、とてもありがたかったことをおぼえています。時と言うのは不思議なもので、今ではすべての学問分野で、学際的な研究が奨励されるようになってきました。振り返って考えると、本学会は、時代を先取りしていたと自負しています。そしてこれからも変わらず、学際的な研究の発表を歓迎します。
さらに、本学会では言語に関する研究を通じて、社会的な貢献を推進していくことも重要な目的と考えています。私自身、子どもを対象とした研究を続けるうちに、言語やコミュニケーション能力の発達に困難を持つ子どもたちと出会う機会があり、自分の基礎研究を、支援研究につなげたいと願うようになりました。私は理論言語学(語用論)の出身ですが、実験や発達研究には関心があったので、これまで発達臨床心理学、特別支援教育、日本語教育などのスペシャリストとの共同研究を進めることで、その願いをかなえることに近づくことができました。2023年度の大会では、大会に参加する言語研究者が、支援研究者と交流ができる機会にもなればと考えて、言語発達障害や、外国につながる子どもの日本語教育を専門とする研究者を講演者として招聘しています。
2023年度は、久しぶりの対面での国際大会が開催されます。ポストコロナ時代に、あらためて、時間と場所を共有して共働作業をすることの意味を確認し合いながら、より高い創造性を目指して、大会を成功させたいと思っています。
言語科学会 第5代会長
中央大学 教授
松井智子